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爬虫類を飼育されている皆様へ
春から夏にかけて、爬虫類の繁殖シーズンが訪れます。
温暖な室内や日照時間の延びとともに、メスの爬虫類は産卵の準備を始めます。
しかしこの時期に注意が必要な重大なトラブルが「卵詰まり」です。
卵詰まりは、放置すれば命に関わる危険な状態であり、早期発見と適切な治療が不可欠です。
爬虫類を診療する当院でも、毎年複数の卵詰まり症例が持ち込まれます。
今回は、爬虫類の卵詰まりについて、原因・症状・診断・治療・予防方法まで、飼い主様に役立つ情報をわかりやすく解説します。
爬虫類の卵詰まりとは
卵詰まりとは、メスの爬虫類が卵を産む際に卵が卵管や産道で詰まり、外に出せなくなる状態をいいます。
獣医学的には「産卵困難症(dystocia)」と呼ばれます。
特にカメ、イグアナ、ヒョウモントカゲモドキ、フトアゴヒゲトカゲ、ボールパイソンなど、多くの種類で発生します。
野生下では産卵に適した場所を自由に選べますが、飼育下ではケージの環境が限られ、温度・湿度・運動量・産卵床の条件が合わないことがあります。
これらの条件不一致が卵詰まりの大きな要因になります。
卵詰まりの原因
飼育環境の不適切さ
フトアゴヒゲトカゲの場合、日中のバスキングスポット温度は40℃前後、全体温度は28〜30℃が理想です。
温度や湿度が適切でないと、筋肉の収縮力が低下したり、卵殻が硬化して産卵が困難になります。
産卵床の深さは体長の1.5倍以上が必要で、柔らかく湿った砂や土が望ましいです。
栄養バランスの不足
カルシウムやビタミンD3の不足は、筋肉や神経の働きに影響します。
実際に当院で診たフトアゴヒゲトカゲは、カルシウム不足により産卵力が低下していました。
飼料にカルシウムパウダーを添加する習慣を持つことが予防につながります。
卵の形・大きさの異常
異常に大きな卵や変形した卵、双子卵は産道を通過しづらくなります。
特にカメやヘビでは、複数の卵が同時に詰まることがあります。
繁殖経験や年齢
初産の若いメスや高齢の個体では、産卵の筋力や経験が不足しており、卵詰まりのリスクが高まります。
卵詰まりの症状
卵詰まりの初期段階では、以下の変化が見られます。
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食欲低下や完全な拒食
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動きが鈍くなる、隅でじっとしている
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後肢の力が弱くなる
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腹部の膨らみと硬さ
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呼吸が浅く早くなる
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産卵床に入っても卵を産まない
放置によるリスク
卵詰まりを放置すると以下の危険があります。
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卵管破裂による大量出血
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腹膜炎の発症
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卵による内臓圧迫で呼吸困難
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感染による敗血症
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死亡
病院での診断方法
当院では、以下の手順で卵詰まりを診断します。
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視診・触診:腹部の膨らみや硬さを確認
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レントゲン検査:卵の位置・数・形を確認
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超音波検査:卵の状態や卵管の炎症を評価
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血液検査:カルシウム値や感染の有無を調べる
卵詰まりの治療法
内科的治療
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カルシウム製剤の投与
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温浴や保温による筋肉緩和
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オキシトシンなど子宮収縮促進剤の投与
軽症例ではこれらの治療で数時間〜1日で産卵が促されますが、数ヶ月かけて注射通院が必要になるなど、治療が長期に渡ることもあります。
外科的治療
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卵管切開術
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卵管摘出術
全身麻酔が必要ですが、再発予防には有効です。
当院では個体の体調やリスクを考慮して最適な方法を選びます。
卵詰まりの予防法
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温度・湿度管理を適正に保つ
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栄養バランスの取れた餌とカルシウム補給
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産卵床の準備
飼い主向けQ&A
Q1:卵詰まりかどうか自宅で見分けられますか?
A:完全な判断は難しいですが、食欲低下・腹部の膨らみ・産卵行動の停滞があれば早期に受診してください。
Q2:自宅で卵を出す方法はありますか?
A:自己処置は危険です。無理に卵を押し出すと卵管破裂や内出血を起こすことがあります。必ず病院での処置を受けてください。
Q3:オスでも卵詰まりはありますか?
A:オスは卵を産みませんが、腫瘍や便秘で似た症状が出る場合があります。
Q4:治療後は再発しますか?
A:環境や栄養状態が改善されない場合は再発する可能性があります。
まとめとメッセージ
爬虫類の卵詰まりは命に関わるトラブルです。
早期に病院で診断・治療を行うことで救える命があります。
飼育中に「少しでも様子が変だ」と感じたら、迷わず当院までご相談ください。